JUSTICE FOR NY

裁判資料

ドアマン陳述書

(甲第44号証)
        *青字は週刊新潮’19.12.26号掲載部分 (転記者注)
        *赤字は新潮でカットされた部分(転記者注)



 陳述書
   令和元年1023

第1 経歴等
(省略)

第2 警察からの一回目の聴取

 (略)事件から数か月経った頃のことでした。「数カ月ほど前に見たお客様の顔を覚えていないか」と聞かれました。それが私の上司からだったか、総務におります警視庁OBの者だったか、ちょっと覚えていないのですが、高輪署のお巡りさんが捜査しているので会うように、という話でした。その時は、私は、あまり記憶力が良い方ではないので、さすがにそれは無理ではないかと思いました。
 私が高輪署に出向くのかと思ったところ、こちらにお巡りさんがやってくるということで、時間を指定されて、会社の総務棟でお会いしました。総務棟に入る前に、雰囲気で「ああ警察だな」とわかる方がいたので、ご挨拶すると、「後ほどお話を伺います」ということでした。それで、時間になって会議室に入ったところ、一人は確か高輪署の強行犯係の刑事さんで、もう1人は捜査一課の方でした。2人とも名刺を見せてはくれましたが、渡してもらえず、お名前などは覚えていません。捜査一課の刑事さんは「私はあくまでも応援です」と仰っていました。
 はじめは写真を見せられました。私の写真です。「この防犯カメラに映っているのはあなたですか?」と確認されまして、風体からわかったので、「私です」と答えました。そして、4月にこういうお客さんを見ているか、覚えているか、と聞かれ、防犯カメラの映像を見せられました。
 これは捜査員の方から聞いた話ですが、防犯カメラの映像から男性と女性を乗せたタクシーの会社が分かったが、当時の防犯カメラは解像度が低く、品川から始まる分類番号はわかっても、その前のひらがなが読めなかったために、その特定に時間がかかってしまったそうです。それで、ようやく運転手さんがわかって話を聞いたときに、「いや、僕よりもホテルのドアマンさんの方が話を聞いているんじゃないですか」と言われてホテルまで訪ねて来たそうです。
 捜査員の話を聞いて、私は「あ」と思いました。「ああ、そのお客さんですか。確か、眼鏡をしていましたよね。灰色のスーツでしたよね。ネクタイは柄物で、ヒゲも生えていましたよね」と答えました。「よくそんなこと覚えていますね」と捜査員は言いました。
 前述しました通り、私はあまり記憶力の良い方とは言えないのですが、その時見たことは、長い9年間のドアマン生活の中でも忘れられない出来事だったからです。以下で、私が警察官に話した内容を陳述いたします。

第3 平成27年4月3日の出来事
 タクシーがホテルの玄関前に着くと、私は後部座席の左側のドアの方へ出向きますが、その時に手前に座っていた男性と目が合い、怖い印象を受けました。そして、奥に座った女性に腕を引っ張るようにして降りるように促していたと記憶しています。
 女性の方は、何があったかはその時はわかりませんでしたが、「そうじするの、そうじするの、私が汚しちゃったんだから、綺麗にするの」という様なことを言っていました。当初、何となく幼児の片言みたいに聞こえ、「何があったのかな」と思っていたら、車内の運転席の後ろの床に吐しゃ物がありました。「車内で戻してしまったんだな」と思いました。それから、男性が女性を強引に降ろすような動きになり、確か腕を引っ張っていたと思います。女性は左側のドアから降ろされる時、降りるのを拒むような素振りをしました。「綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃ」とまだ言っていたので、座席にとどまって車内を掃除しようとしていたのか、あるいはそれを口実に逃げようとしているのか、と思いました。それを、男性が腕をつかんで「いいから」と言いました。
 車外に出た後も、女性は足元がフラフラで、自分では歩けず、しっかりした意識の無い、へべれけの、完全に酩酊されている状態でした。「綺麗にしなきゃ、綺麗にしなきゃ」という様な言葉を言っていましたが、そのままホテル入口へ引っ張られ、「うわーん」と鳴き声のような声を上げたのを覚えています。
 その後、記者会見をする伊藤さんを見たときに、「この事件だったのか」と初めて気づきましたが、記者会見などでの伊藤さんのしっかりした話し方からすると、まるで別人でした。自分では歩けないから、男性が手を強引に引っ張ってホテルの玄関に入って行きました。私はそれを唖然として見送りました。
 女性の酩酊ぶりにも驚きましたが、もう一つ驚いたのが、男性がタクシーの運転手さんに一言の謝罪も無く、女性に対して言った「いいから」という言葉以外は無言で立ち去ったことでした。「え、何もしないで行ってしまうのか」と驚きあきれ、こういう場合、たいていは、運転手さんにクリーニング代のチップくらい渡すものなのに、運転手さんはかわいそうだな、今日はもう仕事にならないだろうな、と思ったのです。
 さらに車内の吐しゃ物を見た時、私は違和感を覚えました。以前、ベルボーイの仕事も経験しましたが、ロビーで戻されたりするお客様もたまにいらっしゃいます。吐しゃ物はたいてい、周囲に広がっていくものなんです。ところがその時の吐しゃ物は客席の足元に敷かれたフットマットの上に、こんもりと固形に近い形でありました。「へえ、珍しいな」と思い、せめて散らばらなくて運転手さんのためには良かったな、と思いました。また、ご本人の女性やその連れの男性に対しても、飛沫が飛散している様子はありませんでした。
 運転手さんは運転中ですし、真後ろの席のことですから、吐しゃ物には気が付かなかったのです。運転席から降りて、外から後部座席を見て、初めて気づいて「うわあ」となり、私もそばへ行って一緒に見ながら、「ひどいですね。今日はもう営業所に戻って掃除だから仕事にならないでしょう、あがったりですね」という会話をしました
 なぜ、そんなにこの時の出来事が記憶に残っているのかというと、男性の運転手さんへの態度がひどいと憤りを感じたこと、女性の(原文ママ)「綺麗にするの、綺麗にするの」というセリフを言って逃げようとする素振りをしていたこと、その声のトーンが何となく奇妙に感じられたこと、女性がその言葉を口実に相手の男性を拒否しているように見えたこと、さらに車外に出た後に女性が泣き声のような声をあげたことが、ものすごく印象的に(原文ママ)残ったからです。

4 供述調書の作成
 1回目の警察からの聴取の際には、何の事件を捜査しているかは教えてもらえなかったのですが、最後に捜査員から、「●●さん(ドアマンのこと・転記者注)はこの二人についてどう思いますか」と聞かれました。私は、当時はこれが事件になるとは思っていませんでしたが、こうして捜査員が来て、改めて防犯カメラの映像を見ながら思い出したところ、「客観的に見て、これは女性が不本意に連れ込まれていると確信しました」と答えました。捜査員は、「これだけはっきりした証言なら行けるな」と2人で話し、「じゃあ、次回は調書を取らして下さい」「ああ、わかりました」というやり取りをしました。2回目にホテルの総務棟に来た2人の捜査員は、1回目とは1人が同じで1人が違う人でした。そして、この時に上述した内容で私の供述調書が作成されました。

5 陳述書作成に至った経緯
 この事件について初めて知ったのは、伊藤さんが司法記者クラブで記者会見をしたときです。朝の番組をホテルの食堂で見ていると、タクシーの運転手とホテルのベルボーイの証言から、という話を聞き、「似たようなことがあるんだな」と思っていたら自分の勤務するホテルが映されたので、「あ、これだったのか」とその時初めて知りました。それからすぐに、会社の上司ではなく、総務の当時の部長から呼ばれ、「事件のことを知っていると思うけれど、何らかの方法でマスコミが張り付いて何か言ってくると思うが、一切口外しないで」と言われました。
 私としては、そう言われてもすでに調書を取られているので、おそらく裁判で証言を求められたりするだろう、その時は会社を通して裁判所から要請が来る、そうしたら証言しなければならないだろう、と思っていました。ところが、私に対しては一切の要請がなく、ひょっとしたら私の調書の存在は裁判の場でも誰にも知られていないのではないか、と考えるようになりました。
 しかし、裁判所から何の連絡もないまま、もうすぐ結審するというニュースを知り、このままでは私の見たことや私の調書の存在は表に出ることなく葬り去られてしまうと考え、9月末に伊藤詩織さんを支える会に連絡をし、ようやく伊藤さんの代理人に連絡が取れ、陳述書作成に至りました。  以上

タクシードライバー陳述書

甲第2号証 
 

             陳述書       平成29626

 

東京第六検察審査会 御中

1 私は今から6年ほど前に■■に入社し、以後、タクシーの運転手として稼働しております。勤務は月水金、月水金、火木土、火木土というように変則的な出勤形態となっており、勤務時間は、午前7時ころから翌日の午前3時ころまでの間です。

2 今から2年前ほど前(原文ママ)の金曜日の夜の午後11時過ぎに、恵比寿駅付近から、シェラトン都ホテル東京まで男女を乗せたときのことはよく覚えています。

 2人が車に乗り込んできたのは、恵比寿南の交差点でした(添付地図の●地点)。男性はグレーっぽい背広の上下で、短髪に眼鏡をかけ、あご髭のある方で、印象に残る容貌の方でした。女性の方は、ズボンにブラウスのボーイッシュな感じの服装の方で、美人でスタイルの良い方でした。乗り込んできたときは、2人とも寿司が美味しかったというような話をしており、恵比寿南の交差点の近くに「喜一」という高級寿司店があることは私も知っていたことから、この店で食事をされたのかな、と思いました。男性が手前側、女性が奥側に座りました。

3 車に乗り込むと、女性の方が、恵比寿南一丁目の交差点付近で、「近くの駅まで行ってください」と言ってきました。一番最寄りの駅は恵比寿駅でしたが、進行方向とは逆でしたので、「目黒駅が一番近いです」と私が答えました。すると、女性は「それでは、目黒駅に行ってください」と言いました。このときは、男性は何も言わなかったと思います。

 その後、車内では2人は仕事の話をしていたように思います。男性が女性に対して「いくら貰っているの?」とか「もっともらってもいいのではないか」というようなことを言っていた記憶があります。そのようなやりとりから、2人は恋人同士ではなく、仕事上の付き合いなのだと推測していました。

 女性の方は、「厚生中央病院前」の交差点付近でも「目黒駅へお願いします」と言ってきましたので、私も引き続き目黒駅に向けて車を走らせました。このときも、男性は何も言わなかったと思います。

4 添付図面の赤字のルートを通って、目黒通りと交差する交差点まで近づいたとき、(転記者注:このあたりでゲロと思われる)私が「そろそろつきますけど」と聞きましたら、男性が「都ホテルに行ってくれ」と言いました。これに対して女性の方は「その前に駅で降ろしてください」と言っていたのですが、男性がさらに「まだ仕事の話があるから、何もしないから」などと言っていました。そのあたりで女性は静かになったように記憶していますが、後ろを振り返っていないため、女性がどのような状態だったかは分かりません。

 このため私は再度男性に、「ホテルでよろしいですか」と確認しシェラトン都ホテルに向かいました。

5 目黒駅付近からシェラトン都ホテルには5分ほどで到着し、ホテルの車寄せに付けました。男性の方が料金を支払って、女性に降りるように促していたのですが、女性の方は一向に動きませんでした。

 私も金曜日の夜でかき入れ時だったこともあって、早く降りてもらいたいと思っていたため、なぜ早く降りないのかと思って振り返っていたことからよく覚えているのです。

 その後、男性は女性の体をドア側に引き寄せようとしたのですが、うまく行かず、いったん先に降りてカバンを車外に置いてから、女性の脇に自分の肩を入れ引きずり出すような形で女性を車から降ろしました。その後も、女性が自ら歩いて行くというよりは、男性に抱きかかえられるような感じでホテルに入っていきました。その時はホテルのボーイさんもいて心配そうにしていましたから、その後のことはボーイさんがよく覚えているのではないかと思います。

6 二人が降りた後、車を出してしばらくして、嫌な匂いがするのに気がつきました。匂いは、いわゆるゲロの匂いとも違い、お酢の香りと洋酒のフルーティーな香りが混ざったような匂いでした。ひょっとしたらやられたかな、と思って後部座席を振り返って見ると、女性が座っていた後部座席の奥側の席の下に、液状ではなく、消化されていない食べ物がそのまま吐かれているのに気がつきました。

7 このため、車の清掃をしなければならなくなり、会社に戻りました。■■■にある会社に戻ったのが午前0時過ぎのことでした。女性が座っていた奥側の後部座席の下のマットとフロアに貼られた布の上にはネタが混ざったご飯が少し消化された状態で吐かれていました。このため、マットを外して洗うとともに、布の部分については消臭剤をかけるなどして入念に掃除をしました。このため、今日はもう終わりだな、と思って仕事から上がりました。

 2人を乗せていた時間はせいぜい15分程度のことでしたが、印象に残る出来事があったことから、当日のことはよく覚えているのです。

8 5月13日に、高輪署から会社に連絡があり、私が乗っていた車が防犯カメラに写っており、聞きたいことがあるから品川駅の港南口のロータリーにある交番に来てくれないかと言われ、出向きました。そこでは、男性2人、女性1人の計3人の警察官から1時間ほど、男女二人を乗せた日の話を聞かれました。私の話を聞いてメモはとっていましたが、特に調書は作成されませんでした。

 その後、何日かたってから、前回会った警察官のうちの一人から私の携帯電話に連絡があって、この前交番で聞いた内容と同じことでいいから話してくださいと言われました。このため、2回目は高輪署に行って、2時間ほどかけて、同じ話をしました。このときは、警察官の方から、防犯カメラに写った車が私が乗っていた車に間違いないかどうかを確認されたほか、乗っていた2人の写真も見せられました。男性の方は、短髪、眼鏡、あごひげに特徴のある容貌であったため、すぐに分かりました。女性の方は、美人という印象はありましたが、まじまじと顔を見ていたわけではないため、おそらくこの人だろうと答えました。私が話した内容については、逮捕状を請求するために必要ということで、パソコンで打っており、プリントアウトしたものを確認して署名捺印しました。警察で話を聞かれたのは、この2回だけです。

 以上、私が記憶していることを述べました。


【訴状・転記資料】

          訴 状

平成29年9月28

東京地方裁判所民事部 御中

当事者の記載
別紙当事者目録記載のとおり

事件名 損害賠償請求事件
訴訟物の価格 金1100万円
貼付印紙額 金5万3000
予納郵券 金6000


         請求の趣旨

1   被告は原告に対して金1100万円およびこれに対する平成27年4月4日から支払済みに至るまで、年利5パーセントの割合による金員を支払え

2   訴訟費用は被告の負担とする
   との判決ならびに仮執行宣言を求める。



          請求の原因

第1 当事者
1   原告は、ニューヨークの大学でジャーナリズムと写真を専攻した後、平成27年初めに帰国し、トムソン・ロイターでインターンとして勤務していた際に、就職先の紹介を受けるべく、平成274月に被告と会ったところ、被告から、後述する不法行為による被害にあった者である。

2   被告は、TBSに入社後、政治部を経て平成25年からワシントン支局長を務めた後、平成285月に同社を退社し、フリーのジャーナリストとして「総理」(幻冬舎)を出版したほか、テレビのワイドショーなどに多数出演していた者である。

第2 事件当日までの経緯
1 原告は、平成25年秋ころに、ニューヨークの大学でジャーナリズムと写真を専攻していた際に、当時、TBSのワシントン支局長であった被告とアルバイト先のピアノバーで面識を得た。原告が、報道機関での仕事に興味があると告げると、被告は数日後にTBSのニューヨーク支局長を交えた昼食会に呼んでくれ、ニューヨーク支局長とともに、TBSのニューヨーク支局まで同行させてもらった。しかし、原告は、ニューヨークの大学卒業後は、日本テレビのニューヨーク支局でインターンとして働くことになったため、ニューヨーク滞在中に、被告と再度会うことはなかった。

2 原告は、平成27年初めに日本に帰国し、トムソン・ロイターでインターンとして働くようになったが、正社員としての就職先を探す中で、以前面識のあった被告がTBSのワシントン支局であればいつでも仕事が紹介できると話していたことを思い出し、就職先の紹介をしてもらえないかと考え、メールで連絡をとったところ、被告からは、「まずこっち(アメリカ)に来てフリーランスとして契約して、しばらく仕事をしてもらいながら正式に採用に向かうという手もあります。このやり方なら私が決済できます。」(平成27年3月27日)といったメールの返信があった(甲1号証)。

3 その後、被告に対して原告の履歴書を送ったところ、平成27328日に被告から「履歴書受け取りました。ありがとう。最大の関門はビザだね。TBSで支援する事も可能ですので、検討してみます。ところで、ヤボ用で一時帰国することになったんだけど、来週は東京にいますか?」とのメールがあった。原告は、渡米の段取りに向けた話をするものと考えて、被告に会うこととし、事件が発生した平成2743日に恵比寿で被告と会う約束をするに至った。

4 したがって、原告は被告とは事件発生2年前の平成25年に、ニューヨークで2回会ったことがあるだけであり、しかも、被告と11で会食をするのは、初めてのことであった。なお、原告は、43日の会食時にも、他の報道関係者が同席するものと考えていた。

第3 会食時の経緯
1 原告は、午後7時に恵比寿駅で被告と待ち合わせをしたが、取材のために1時間遅れてしまった。被告に電話をすると、駅まで迎えに来てくれ、店までの道すがら「恵比寿には顔をださなきゃいけない店がものすごくあり、次に行く寿司屋を予約していて、ここは軽くつきあってくれ」と言われ、串焼き屋に案内された。串焼き屋では、原告は串焼き5本食べたほか、コップのビール2杯、グラスワイン1杯ほどを飲んだだけであった。1時間半ほど店内にいたものの、被告人は世間話などに終始し、本来するべきビザに関する打合せができなかった。

2 その後、歩いて5分ほどのところにある寿司店に移動した。被告からは、「君の良い評判を聞いていたので、一緒に働きたいと思っていた」などと、ようやく仕事の話が出たが、肝心のビザや待遇の話は出なかった。この間、原告の記憶では2人で日本酒を2合ほど飲んだだけだったが、原告が2度目のトイレに行った際に、頭がくらくらとし、蓋をした便器にそのまま腰掛け、給水タンクに頭をもたせかけて休んだきり、その後の記憶がなくなってしまった。

第3 ホテルに連れていかれるまでの経緯 (採番ダブリ原文ママ)
1 原告は記憶していないが、寿司屋から被告とともにタクシーに乗り込み、シェラトン都ホテルに連れて行かれた。タクシーの運転手は、そのときのことをよく記憶しており、原告が「近くの駅まで行ってください」と言っていたにもかかわらず、最終的には被告の指示でシェラトン都ホテルに向かったとのことである。さらに、ホテルに到着しても、後部座席の奥側に座っていた原告はなかなかタクシーから降りることができず、被告が原告の体ごと引きずりだすような形で原告をタクシーから降ろしたとのことである(甲2号証)

2 タクシー運転手の記憶は、ホテルに残されていた防犯カメラの画像によっても、裏付けられている。すなわち、午後1119分に原告らを乗せたタクシーがホテルの車寄せに到着して、午後112042秒に、被告がタクシーの車外に出た場面をとらえた後、再び、被告がタクシー内に体を入れ、車内に残っていた原告を抱えるようにして出て来たのが午後112152秒であり、1分以上の時間をかけて原告を車内から降ろす様子が記録されていた(甲3号証)。
 さらに、ホテル内に入った後も、ロビー内を被告が原告を抱きかかえ、原告が足元に力が入らず上半身を曲げるような不自然な体勢で歩いて行く様子が記録されている(甲3号証、午後11時22分16秒など)。
 なお、シェラトン都ホテルに対しては本件訴訟提起前に、防犯カメラの映像の開示を求めたところ、裁判所から提出を命じられればこれに応じるとのことであったことから、文書送付嘱託の申立を行う予定である。

第4 ホテルの居室内でのやりとり
1 原告が、痛みで目が覚めると被告からの性的被害に遭っている最中であった。ベッドの上で、裸で仰向けになっていた原告に跨がって、被告が原告の下腹部に性器を挿入していた。被告の行為に気づいた原告が「痛い、痛い」と何度も訴えたが、被告は行為を止めようとしなかった。さらに原告が「痛い」と言い続けたところ、被告は「痛いの?」と言って動きを止めたものの、体を離そうとはせず、押しのけようとしても身動きがとれなかった。原告が、「トイレに行きたい」と言うと、被告はようやく体を起こした。その際に、被告が避妊具をつけていないことがわかった。

2 原告は、バスルームに駆け込んで鍵をかけた。バスルーム内には、ヒゲそりなどの男性もののアメニティがあったタオルの上に並べられていたことから、その場所が、被告の滞在しているホテル内であることが分かった。原告が鏡で自分の裸の体を見ると、乳首から出血しており、体がところどころ、傷ついていることが確認できた。原告は被告から服を取り戻して、直ちに部屋から逃げる必要があると考えた。

3 原告が、バスルームのドアを開けると、すぐ前に被告が立っており、そのまま肩をつかまれ、再びベッドにひきずり倒された。そして、抵抗できないほどの強い力で体と頭をベッドに押さえつけられ、再び性的暴行を加えられそうになった。原告が足を閉じ体をねじ曲げたとき、被告の顔が近づきキスをされかけたが、原告が必死の抵抗で顔を背けたところ、原告の顔はベッドに押しつけられた状態となった。被告が原告の顔や頭と体を押さえつけ、自分の体で覆い被さった状態であったため、原告は息ができなくなり窒息しそうになった。原告が必死で自らの体を硬くし、体を丸め、足を閉じて必死に抵抗を続けたところ、頭を押さえつけていた被告の手が離れ、ようやく呼吸ができるようになった。原告が、「痛い。止めて下さい」と言うと、被告は、「痛いの?」などと言いながら、無理やり膝をこじ開けようとしてきたが、原告は体を硬くして精一杯抵抗を続けた。

4 ようやく被告が動きを止めたとき、原告は、とっさに英語で「What the fuck are you doing!」(何するつもりなの!)「Why the fuck do you do this to me.」(何でこんなことするの)「I thought we will be working together and now after what you did to me,  how do you think we can work together.」(一緒に働く予定の人間にこんなことをして、何のつもりなの)などと汚い言葉を混ぜて罵倒した。これに対し、原告は「君のことが本当に好きになっちゃった」「早くワシントンに連れて行きたい。君は合格だよ」などと答えた。原告がさらに、「それなら、これから一緒に仕事をしようという人間になぜこんなことをするのか。避妊もしないでもし妊娠したらどうするのか。病気になったらどうするのか」とさらに英語で聞くと、被告は「ごめんね」と一言謝った。そして、「これから一時間か二時間後に空港に行かなければならない。そこへ行くまでに大きな薬局があるので、ピルを買ってあげる。一緒にシャワーを浴びて行こう」などと言ってきたが、原告はこれを断った。

5 原告は、ようやくベッドから抜け出し、被告に服を返すように行ったが(原文ママ)、被告がベッドから動かなかったことから、原告自らが部屋のあちこちに散乱していた服を拾った。なかなか見つからなかったブラジャーは開いた被告スーツケース(原文ママ)の上にあったが、パンツが一向に見つからず、被告に聞くと、被告は「パンツくらいお土産にさせてよ」などと言ってきた。なおも、原告がパンツを返すよう被告に求めると、被告は、「今まで出来る女みたいだったのに、今は困った子どもみたいで可愛いね」などと良って(原文ママ)、ようやくパンツを返してきた。取り戻した下着や服を身につけ、原告一人で客室を出て、午前550分頃タクシーでホテルから帰宅した。なお、防犯カメラの映像にも、原告が平成2744日の午前550分にホテルを一人で歩いて出ていく様子が記録されている(甲3号証)

第5 事件後の経緯
1 原告は自宅に戻ると、真っ先に服を脱ぎ、着ていたものを洗濯機に入れ、シャワーを浴びたが、あざ、出血している部分があり、胸はシャワーをあてることもできないほど痛みを感じた。その後、被告が避妊具をつけずに性行為に及んでいたことから、平成2744日のうちに、自宅近くにあるイーク表参道に行き、アフターピルの処方を受けた(甲4号証)。

2 事件後、原告は右膝の痛みを感じており、平成2745日に友人と会った際には、痛みのために歩行が困難な状況となっており、友人宅に宿泊させてもらうこととなった。そして、翌6日に、友人宅の近所にある元谷整形外科に行ったところ、「凄い衝撃を受けて、膝がずれている。手術は困難だし、完治まで長い時間がかかる」と言われ、「右膝内障、右膝挫傷」との診断を受けた。そして、その後膝の痛みのために、数カ月にわたってサポーターをつけて生活することとなった。

3 友人に事件のことを初めて話した結果、警察に被害を申告することを決意するに至り、平成2749日に原宿署に相談に行き、その後、事件を管轄する高輪署の警察官に相談をした。

4 平成27417日に、性被害の被害者を多く扱うというまつしま病院に行き、検査を受けた結果、外陰部から膣内には外傷はなく、性病についても異常はないとの診断結果であった。事件後、眠れていなかったことから、睡眠薬の処方を受けた(甲5号証)。

5 平成27430日に、高輪署が原告の被告に対する告訴状を受理した。

6 原告は、膝の痛みのために事件後1カ月ほど職場に復帰することができず、その間も、突然事件のことを思い出したり、街中で、被告に似た人物を見ただけで、吐き気を催してパニックを起こすという症状が続いていたため、平成27520日に、精神科・診療内科のまちどりクリニックを受診したところ、「外傷後ストレス障害」との診断を受けた(甲6号証)。

7 平成276月初めに被告に対する逮捕状が請求されたものの、逮捕状執行が直前になって、警視庁上層部の指示によってとりやめられる事態となり、捜査の担当も高輪署から警視庁捜査1課に変更となった。警視庁捜査1課の捜査員を通じて、被告側から示談の申し入れがあったが、原告はこれを断った。

8 平成28716日に、被告に対する不起訴処分が下された。このため、原告は、この処分を不服として、平成29529日に東京検察審査会に対して審査の申立を行った(甲7号証)。

第6 被告の不法行為責任
1 被告は、平成2744日の午前5時ころ、原告が意識を失っているのに乗じて、避妊具もつけずに原告の下腹部に陰茎を挿入させる等の性行為を行ったのであり、かかる行為は、原告に対する故意による不法行為に該当し、被告は民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

2 さらに被告は、平成2744日の午前5時ころ、原告が意識を取り戻し、性行為をやめるよう求めた後も、原告の体をおさえつける等して、性行為を続けようとしたのであり、かかる行為は、原告に対する故意による不法行為に該当し、被告は民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

第7 原告の損害
1 原告は、上述のとおり、突然事件のことを思い出したり、街中で、被告に似た人物を見ただけで、吐き気を催してパニックを起こすという症状が現在に至るまで続いており、被告の身勝手な行為によって極めて重大な肉体的・精神的苦痛を被った。原告がこれによって被った損害に相当する慰謝料は金1000万円を下回らない。

2 原告が自ら被告に対して損害請求していくことは極めて困難であり、請求金額の1割にあたる弁護士費用については、被告の不法行為と相当因果関係ある損害と判断されるべきである。

第8 結論
よって、原告は被告に対し、民法709条に基づき不法行為に基づく損害賠償として、金1100万円およびこれに対する事件発生日である平成27年4月4日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金を支払うことを求める。

【判決文・転記資料】

【もくじ(判決文の構成)】

主文

自由及び理由

第1 請求 
1本訴
2反訴(1)(3)
   
第2 事案の概要
1  (文章にて説明あり)
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠等により容易に認められる。)
   (1)当事者 ア~イ
   (2)会食に至る経緯 ア~イ
   (3)本件行為及び本件行為に至る経緯 ア~イ
   (4)本件行為後の経過 ア~イ
   (5)本件公表行為 ア~エ
3争点及び争点に関する当事者の主張
   (1)本件行為につき原告の同意があったか(本訴請求)
     (原告)ア~エ (被告)ア~オ
   (2)原告の損害額(本訴請求)
     (原告)ア~イ (被告) 争う。
   (3)本件公表行為が被告に対する不法行為を構成するか(反訴請求)
     (原告)(被告)否認し、争う。
   (4)被告の損害額(反訴請求)
     (被告)ア~エ (原告)争う。
   (5)謝罪広告掲載等の要否(反訴請求)
      (被告) (原告) 否認し、争う。

第3当裁判所の判断
1 認定事実(前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
   (1)会食までの経緯等 ア~カ
   (2)待ち合わせから本件居室に入るまでの経緯等 ア~カ
   (3)本件居室の状況等 ア~カ
   (4)本件行為後における原告の言動等 ア~ト 

2  争点(1)(本件行為につき原告の同意があったか)について
   (1)本件行為に至る経緯及び本件抗議の状況に関する両当事者の供述 ア~イ
   (2)原告の供述について
   (3)被告の供述について
   (4)原告の供述の信用性に関する被告の主張について ア~ク
   (5)本件行為についての合意の有無 ア~イ   

3  争点(2)(原告の損害額)について   

4  争点(3)(本件公表行為が被告に対する不法行為を構成するか)について
   (1)別紙記述目録1ないし3について ア~エ
   (2)別紙記述目録4について 

5 小括    

6 結論

【判決文】主文 ~ 第1 請求 

判決文

 主  文

 1 被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する平成2744日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の本訴請求を棄却する。

3 被告の反訴請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを19分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

  

事  実  及  び  理  由

 

1 請求

1.本訴

被告は 、原告に対し 、1100万円及びこれに対する 平成 2 7 年 4 月4 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 。

 

2.反訴

(1) 原告は、被告に対し、1億3000万円及びこれに対する平成29年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え 。

(2) 原告は 、別紙新聞目録記載 1ないし5 の各新聞に、別紙謝罪広告目録記載1(1)の内容の謝罪広告を、同(2)の掲載条件により、各1回掲載せよ。

(3) 原告は 、被告が、本判決の確定後1年間に限り、別紙ウェブサイト目録記載 1のウェブサイトに、別紙謝罪広告目録記載2の内容の謝罪広告を掲載することを受忍するとともに、本判決の確定後2か月以内に、1か月間、別紙ウェブサイト目録記載2 のウェブサイトに、別紙謝罪広告目録記載 2 の内容の謝罪広告を掲載せよ。

【判決文】第2 事案の概要

 2 事案の概要

1 本訴は、原告が、被告に対し、被告は、原告が意識を失っているのに乗じて、避妊具を付けずに性行為を行い、原告が意識を取り戻し、性行為を拒絶した後も、原告の体を押さえ付けるなどして性行為を続けようとし、これにより、肉体的及び精神的苦痛を被ったとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき 、慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の合計1100万円並びにこれに対する平成27年4月4日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金の支払を求める事案である 。

反訴は、被告が、原告に対し、原告が主張する性行為は、原告との合意の下で行われたものであったのに、原告は被告を加害者とする性暴力被害を訴えて、週刊誌の取材、記者会見、著書の公表などを通じて、不特定多数人に向けて発信又は流布し、これにより、被告の名誉及び信用を毀損し 、プライバシーを侵害したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき 、慰謝料2000万円、営業損害1億円及び弁護士費用1000万円の合計1億3000万円並びにこれに対する平成29年10月20日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723 条に基づき、名誉回復処分としての謝罪広告の掲載又はその受忍を求める事案である。

 

2 前提事実  (当事者間に争いがないか 、後掲証拠等により容易に認められる。)

(1) 当事者

ア  原告は、平成元年生まれの女性であり、ニューヨークの大学に在籍後、平成 27年初めに日本に帰国し、後記(3)の性行為のあった同年4月当時、トムソン・ロイターにおいてインターンとして働いていた。

イ  被告は、昭和 41年生まれの男性であり、上記性行為のあ った当時、株式会社TBSテレビ(以下「 T B S」という。)のワシントン支局長の地位にあった者である。

(2)  会食に至る経緯

ア 原告は、平成25年12月11日、ニューヨークの大学でジャーナリズムと写真を専攻していた際、アルバイト先のピアノバーにおいて、被告と知り合った(甲9、37)。

イ 原告は、平成27年325日(以下、平成27年中の出来事については、元号の記載を省略する。)、被告に対し、正社員としての就職先の紹介を求めるメールを送信し、これを契機として、原告と被告は、被告が一時帰国中の4月3日に、恵比寿において会う約束をした(119)

(3) 本件行為及び本件行為に至る経緯

ア  原告と被告は、43日、恵比寿駅で待ち合わせ、「とよかつ」という名称の串焼き屋(以下「本件串焼き店」という。)において飲食をした後、恵比寿駅から約 5 分程度離れた「鮪の喜一」という名称の寿司屋(以下「本件寿司店」という。)において飲食をした。原告と被告は、その後タクシーに乗車して、被告が宿泊する東京都港区白金台所在のシェラトン都ホテル東京(以下 「本件ホテル」という。)に向かった(甲237、乙39、原告46頁、被告45頁)。

イ 原告と被告を乗せたタクシーは、同日午後11時19分、本件ホテルに到着し、その後、原告と被告は、本件ホテルの被告が宿泊する233号室(以下「本件居室」という。)に入った。原告は、翌4日午前5時50分頃、単独で本件ホテルを出た。(甲151612)

本件ホテルに滞在中、被告が避妊具を着けずに原告の陰部に陰茎を挿入する等の性行為(以下「本件行為」という。)をした事実については、当事者間に争いがない 。

(4) 本件行為後の経過

ア 原告は、4月30日、高輪警察署に告訴状を提出し、同署はこれを受理したが、東京地方検察庁は、平成2年7月22日、被告に対する準強姦被疑事件について、不起訴処分をした。

イ 原告は、平成29年5月29日、上記処分を不服として、検察審査会に対し審査を申し立てたが、検察審査会は、同年9月21日、上記処分が相当であるとの議決を行 った (甲7、10) 。

(5) 本件公表行為

原告は、本件行為やその後の経過等につき、以下のとおり公表した(以下「本件公表行為」という。)。

ア 週刊新潮は、原告に対する取材に基づき、平成29年5月18日号において、別紙記述目録1記載1ないし4の内容を含む記事を掲載した。

イ 原告は、平成29年5月29日、司法記者クラブでの記者会見において、別紙記述目録2記載 1ないし6の内容を述べた(182212)

ウ   原告は、平成2910月、別紙記述目録3記載1ないし26並びに別 紙記述目録4記載1ないし6の内容を含む著書「ブラックボックス」(以下「本件著書」という。)を発表した。本件著書の累計発行部数は 、令和元年5月時点で、約5万部である。(19、乙42)

エ  原告は、平成29年10月24日には外国人特派員協会での記者会見において、同年12月6日には国会議員との意見交換会において、平成30年316日には国連本部での記者会見において 、同年6月28日には英国放送協会 (BBC)のテレビ番組において 、それぞれ本件行為について言及したほか 、ノルウェー及びスウ ェーデンのテレビ番組においても本件 行為について言及した(23ないし273537)、枝番含む。) 。

3 争点及び争点に関する当事者の主張

(1)本件行為につき原告の同意があ ったか (本訴誇求)

(原告)
以下のとおり、本件行為につき 、原告の同意はなか った。

ア 本件行為に至る経緯
(ア) 原告は、4月3日午後8時過ぎに、恵比寿駅において被告と待ち合わせ、本件串焼き店に向かった。原告は、本件串焼き店において、ビールをグラス2杯、ワインをグラス1、2杯飲んだ。
(イ) 原告と被告は、本件串焼き店を出た後、5分ほど歩いて、同日午後9時40分頃、本件寿司店に到着した 。原告と被告は、本件寿司店において、二人で少なくとも2合の日本酒を飲んだ。原告は、本件寿司店において、2回目にトイレに行った際、めまいが強く立っているこ とができず、便器の蓋に腰かけ 、そのまま後方に頭を傾ける状態となった。原告の記憶は、この時点以降、後記のとおり、本件居室におい て下腹部の痛みで目が覚めるまでの間喪失している。
(ウ) 被告は、本件寿司店を出た後、原告と共にタクシーに乗車したが、運転手によれば、原告は、乗車時に「近くの駅に行ってください。」などと述べていた。被告の指示によりタクシーが本件ホテルに到着すると、被告は、原告をタクシーから引きずり出すように降車させ、足元がふらついた状態の原告に体重を預けられるようにして、本件居室に向かった。

イ  本件行為について
(ア) 原告は、4月4日午前5時頃、本件居室において目を覚ました時、ベッドの上で全裸で仰向けになってり、被告が原告の下腹部に避妊具を装着していない陰茎を挿入した状態であった。原告が「痛い。」、「やめて。」と述べても被告は行為を止めず、原告が「トイレに行きたい。」と述べると被告は原告から体を離した。
(イ) 原告は、バスルームに駆け込み、鏡を見て、体の複数の部分が赤くなっていることを認識じた。原告がバスルームから出ると、被告は入口側のベッドに原告を押し倒し、原告の顔に被告の顔を近付けたため、原告は顔を背け、ベ ッドに顔面が押し付けられる形となって呼吸が困難になった。
(ウ) 原告がなぜこのようなことをするのかと英語で問いただしたのに対し、被告は、「ごめんね。」、「君のことが木当に好きになっちゃった。」、「早くワシントンに連れて行きたい。君は合格だよ。」、「あと1、2時間で空港に行かなくてはいけないので、その途中に大きなドラッグストアがあるので、ピルをそこで買いましょう、その間に一緒にシャワーを浴びよう。」などと述べた。
(エ) 原告は、身支度をしようとしたが、原告の着衣は室内に散乱した状態であった。被告は、原告に対し、原告の下着を差し出しながら、「パンツくらいお土産にさせてよ。」、「いつもはできる女みたいなのに、今日はまた子どもみたいでかわいいね。」などと述べた。
(オ) 原告のブラウスは濡れており着用できない状態であった。被告が原告に対し被告のTシャツを差し出したため、原告は、一刻も早くその場から逃れるために、Tシャツを受け取って著用し、本件居室を出た 。

ウ  本件行為後の事情
(ア) 原告は、帰宅した後、Tシャツを捨て、その他の衣類の洗濯をした。原告がシャワーを浴びて体の傷を確認、すると、腕にあざのようなものがあり、乳首には出血があったほか、右腰にもひりひりするような痛みがあった。
(イ原告は、同日中に産婦人科であるイーク表参道に行き、アフターピルの処方を受け、服用した。その後、原告は、被告に対し、被告を気遣うような内容等を記載したメールを送信しているが、それは、混乱状態にある原告が、何事もなかったことにしたいという願望の下に、苦痛を避けるためにとった行動である。

  被告は、原告が意識を失っているのに乗じて、避妊具を付けずに原告の下腹部に陰茎を挿入させ、また、原告が意識を回復し、性交渉をやめるよう求めた後も、原告の体を押さえ付けて性交渉を継続しようとしたのであり、これらの行為は原告に対する不法行為を構成する。

(被告)
否認し争う
以下のとおり、本件行為は原告の同意に基づくものである。

ア  本件行為に至る経緯
(ア) 被告は、4月3日午後7時頃、恵比寿駅に原告を迎えに行き 、本件串 焼き店に向か った。原告と被告は、本件串焼き店において 、ビー ルの大瓶を2本、サワーの大ジ ョッキを各1杯、ワインの一升瓶を1本注文 した。
(イ被告と原告は、同日午後8時頃、本件串焼き店を出て本件寿司店に向かったが、その際の原告の足取りは正常であった。本件寿司店に到着後、原告は、手酌で日本酒を飲み始め、途中、トイレに入ってそのまま寝込んだが、その後、席に戻り、「少し飲みすぎてしまいましたが、もう大太夫です。」と述べて、再び日本酒を飲み始めた。原告は、本件寿司店において、少なくとも67 合の日本酒を飲み、他の客の椅子に座って話したり、裸足で店内を歩いたりするなどの行動をとった。
(ウ) 原告は、本件寿司店を出た際、足元がふらついていたため、被告は、原告が駅まで歩いていく ことは不可能であると判断し、原告と共にタクシーに乗車した。原告が車内で嘔吐をしたため、被告は、原告を駅で降ろしても帰ることはできず、タクシーに一人で乗せておくのも不安であったことや、被告は午前0時までに米国の政治の動向を確認する必要があったことに鑑みて、原告を本件ホテルに連れて行くことにした。
(エ)被告は 、タクシーが本件ホテルの車寄せに到着した後、原告に手を貸して降車させた。被告は、本件居室に向かう間、原告の歩調に合わせて、原告の横に並んでゆっくりと歩いた。原告は、その際、「少し休めば大丈夫です」、「迷惑をかけてすいません。」などと述べた。

イ 本件行為について
(ア) 原告は、本件ホテルの部屋に到着してから嘔吐をして寝込み、午前2時頃に起きて冷蔵庫のミネラルウォーターを飲むと、窓側のベッドで寝ている被告に自分の状況を尋ねた 。原告は、被告が不機嫌な様子 であることを見て取ると、就職活動に関し自分が不合格であるかを何度も尋ねた。
(イ) 被告が入口側のベッドに戻るよう指示すると、原告は戻ったものの、被告に対し、就職活動についてまだチャンスがあるのであればこちらに来てほしいなどと述べたため、被告は根負けして、原告の気持ちをなだめるために原告の寝ていた入口側のベッドに移動し、腰かけた。
(ウ) 原告は、就職活動について自分が不合格であるかを尋ねながら、左手で被告の右手を握り、引き込むよ うに引っ張ったため、被告は原告と添 い寝をする状態になった。
(エ) 原告は、再び就職活動に関し自分が不合格であるかを尋ねつつ、寝返りを打ちながら右足を被告の体の上に乗せた。そのため、被告は、悪印象を挽回しようとする原告に安心感を与えようとして、性交渉を始めた 。
(オ) 原告が痛みを訴えたため、被告は、性交渉を中止した。原告と被告は 、短時間の会話をした後 、就寝した。
(カ) 被告は、午前5時に携帯電話のアラーム音で目が覚 めた。その後、原告は、シャワーを浴びてバスルームから出て、被告に対し、何か着 るものを貸してもらえませんか。」と述べた。被告がパッキング中の荷物の中から好きなものを選んで着てよ いと伝える と、原告は、T シャツを選んで着た。原告は、午前6時頃、被告に見送られて本件居室を出た 。

ウ  本件行為後の事情 
(ア) 被告は、原告が本件居室に鞄を置き忘れたと考え、原告に電話をかけて確認したが、その際、原告は、被告を非難する 言動をと らなかった。
(イ) 原告は、4月6日、被告に対し、無事にワシントンに戻ったか気遣うとともに、ビザの対応についで尋ねるメールを送信した。

エ  以上のとおり、原告は、本件行為の当時 、明確な意識があ ったこと、本件行為後に初めて被告に送 ったメールにおいて被告を非難する言葉がなかったこと、被告には性交渉 を行う動機がなか ったのに対し原告にはその動機があったことなどからすると、本件行為につき原告の同意があったことは明らかである。

オ   これに対し、原告の供述は、イーク表参道のカルテにおいて、原告は4月4日の午前2時ないし3 時に意識があ ったことを認めている点、まつしま病院等のカルテにおいて本件行為自体の記憶がないとしている点、本件居室に到着したのが午後11時頃であるのに本件行為が翌日午前5時頃としている点、本件居室のバスルームに設置された電話機を使用していない点、被告から渡されたTシャツを着用している点、原告から本件行為を打ち明けられた知人らの陳述書の内容と矛盾がみられる点などにおいて信用性がない。

(2) 原告の損害額 (本訴請求)

(原告)
ア   原告は、突然、本件行為を思い出したり、街中で被告に似た人物を見かけたりすることで、吐き気を催し、パニック状態に陥るなどの症状が生じ、それが現在に至るまで継続している。このように、原告は、被告の不法行為によって重大な肉体的及び精神的苦痛を被ったのであり、その慰謝料は1000万円を下らない。

イ  原告が自ら被告に対して損害賠償請求をすることは困難である。被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は100万円が相当である。

(被告)
争う。

(3) 本件公表行為が被告に対する不法行為を構成するか(反訴請求)
(被告)
本件公表行為は、被告が原告に対し準強姦又は強姦を行ったという真実に反する内容を含み、被告の名誉を殿損するとともに、被告が原告に送ったメールを暴露する内容を含んでいる点で、被告のプライバシーを侵害するものであるから、被告に対する不法行為を構成する。

(原告)
否認し、争う。

(4) 被告の損害額 (反訴請求)

(被告)
ア 被告は、原告の本件公表行為により、社会的非難を受けるとともに、ジャーナリストとしての社会的信用が著しく低下した。これにより被告が被った精神的損害に係る慰謝料は、2000万円を下らない。

イ 被告は、原告が記者会見を行った後の平成 29年 10 月以降、テレビ局からの出演依頼等がなくなり、顧問会社との間の顧問契約が解除されたことなどにより、営業収入が著しく減少した。被告が名誉を回復し、従前の 営業収益を得られる基盤を再構築するためには少なくとも5年が必要であるから、被告が被った営業損害は、平成29年10月時点の営業収入見込額の5年分に相当する1億円である 。

ウ  被告の慰謝料と営業損害の合計1億2000万円の約1割に相当する弁護士費用1000万円を、被告に負担させべきである。

エ 以上から、被告の損害額は13000万円である。

(原告)
争う。 

(5) 謝罪広告掲載等の要否(反訴請求)
(被告)
原告の本件公表行為により 被告の社会的評価を低下 させる情報がインターネット上に広く拡散されたことなどに鑑みると、被告の名誉の回復のためには、金銭賠償のみでは足りず、、謝罪広告の掲載又はその受忍が不可欠である。

(原告)
否認し、争う。

【判決文】第3 当裁判所の判断

第3 当裁判所の判断

1 認定事実(前掲事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

(1) 会食までの経緯等
ア 原告は、平成25年12月11日、ニューヨークの大学でジャーナリズムと写真を専攻していた際、アルバイト先のピアノバーにおいて、被告と知り合った。原告が被告に対し報道機関での仕事に興味があると伝えたところ、被告は、同月12日TBSのニューヨーク支局長を交えた昼食会に原告を招き、TBSのニューヨーク支局へと同行させた。その後、原告はニューヨーク滞在中に被告と再び会うことはなかった。(甲9、37)

イ 原告は、平成26年8月27日、被告に対し、TBSのニューヨーク支局においてインターンとして採用されるための協力を求めるメールを送信した。TBSのニューヨーク支局では、当時、インターンを募集していなかったため、被告は、知人である日本テレビのニューヨーク支局長に原告を紹介し、原告は、日本テレビのニューヨーク支局においてインターンとして採用された。(甲37、乙125

ウ 原告は、平成27年初めに日本に帰国し、トムソン・ロイターのインターンとして働き始めた(争いがない)。

エ 原告は、3月25日、被告に対し、就職先の紹介を求めるメールを送信した。被告は、同日、原告に対し、上記メールへの返信として、検討のため履歴書を送ってほしいと述べるとともに、プロデューサーの新規採用の場合には被告が勤務するテレビ局本社の決済が必要であるが、米国においてフリーランスとして契約し、仕事を続けながら正式な採用を目指す場合には被告において決済可能であると述べるメールを送信した。これを受けて、原告は、同月27日、被告に対し、履歴書を添付したメールを送信した。(11)

オ 一方、被告は、被告が以前週刊文春に寄稿した記事をめぐるTBSの賞罰委員会の開催に関する聞き取りのため、3月30日から4月4日までの間、一時帰国を命じられていた。(20、被告27)

カ 被告は、3月28日、原告に対し、最大の難関はビザであるが、被告が勤務するテレビ局による支援も検討できるとして、被告が翌週に帰国した際に会うことができるかを尋ねるメールを送信した。その後、原告と被告は、4月3日に会食をする約束をした。(12ないし9)

(3) 待ち合わせから本件居室に入るまでの経緯等
ア 原告は、4月3日、被告に対し、同日午後8時に恵比寿に到着できるとのメールを送信した。原告は、九段下での奉納相撲の取材を終え、同日午後6時41分、被告に対し、仕事が予想よりも早く終わったため、恵比寿での集合時間について連絡が欲しいとのメールを送信した。その後、原告は、タクシーで赤坂にあるロイター本社に立ち寄って機材を置き、原宿にある自宅に戻って着替え、午後8時頃、恵比寿駅に到着し、迎えにきた被告と共に本件串焼き店に向かった。(11112、甲37) 

イ 原告と被告は、本件串焼き店に到着した後、カウンター席で飲食をした。原告は、本件串焼き店において、小グラスのビール2杯、グラスワインを1杯ないし2杯飲んだ。(39、原告46)

ウ 原告と被告は、本件串焼き店を出て、本件寿司店に歩いて向かった。原告は、本件串焼き店を出た際、コートを置き忘れたことに気付き、取りに戻った。原告は、本件寿司店に向かっている間、足取りは正常であった。(原告5頁、被告1112)

エ 原告と被告は、本件寿司店に到着した後、カウンター席で飲食をした。原告は、本件司店において、日本酒を少なくとも2合飲んだ。原告は、本件寿司店において、二度、トイレに行ったが、二度目にトイレに行った際、蓋をした 便器に腰かけ、給水タンクに頭をもたせかけた状態で発見され、原告は、この時以降の記憶がないと供述している。他方、被告の供述によると、原告は、二度目のトイレから戻った後、同じ内容を繰り返し話す状態であった。(37、原告78頁、被告43447981)

オ 原告は、本件寿司店を出た際、千鳥足であり、時折、並木に手をついて休む様子であった。原告と被告は、午後11時過ぎ頃、タクシーを拾い、原告が奥側、被告が手前側に座った。原告は、恵比寿南1丁目付近において、運転手に対し、「近くの駅まで行ってください。」と述べた。運転手は、最寄りの駅は恵比寿駅であったが、進行方向とは逆であったため、「目黒駅が一番近いです。」と答えた。これに対し原告は、「それでは、目黒駅に行ってください。」と述べたが、被告は何も言わなかった。被告は、タクシーが目黒駅に到着する寸前、運転手に対し、「都ホテルに行ってくれ。」と指示した。原告は、「その前に駅で降ろしてください。」と述べたが、被告は、「まだ仕事の話があるから、何もしないから。」などと言い、原告はその後静かになった。原告は、タクシーの車内において、嘔吐をした。(2、被告1681)

カ 午後11時19分09秒に、タクシーが本件ホテルの車止めに到着したものの、原告は自力で降車することができなかった。被告は、原告の体をドア側に引き寄せようとしたものの、上手くいかず、一旦先に降りて鞄を車外に置いてから、原告の左側に自分の肩を入れて引きずるようにしてドア側に移動させ、原告は、停車から2分以上が経過した午後11時21分44秒に降車した。降車後、原告は、足元がふらついていて単独で歩行するのは困難な状況であり、被告は、原告の荷物を左手で持ち、右手で原告を支えるようにして、本件居室に向かった。(2315、乙40、被告7980)

3)本件居室の状況等
ア 本件居室は、東側に入口があり、入口を入ったすぐ左側(南側)にはバスルーム(浴槽、トイレ、洗面所)が、右側(北側)にはクローゼットが設置されていた。入口から中に入ると、奥側(西側)には窓とベランダがあり、窓の手前にはソファとテーブルが置かれ、左側(南側)には、ベッド(幅130センチメートル、長さ200センチメートル)が2台、それぞれ南側を頭にして、窓側(西側)と入口側にそれぞれ設置されていた。(甲29、乙3、原告14頁、被告50538283頁)

イ 本件居室のバスルームにはシャワーと電話機が設置されていたが、原告は本件居室に居室中、いずれも使用していない。(甲29、原告7375頁)

ウ 本件行為後において、原告が前日着ていた私服を探したところ、ブラウスは入口のドアノブに濡れた状態でハンガーに架けられており、ブラジャーは窓側のテーブル付近に開いた状態で置かれていた被告のスーツケースの上にあり、パンツは被告から手渡された。(37、原告1314)

エ 原告は、4月4日午前5時50分、本件ホテルを出た。原告は、その際、被告が所有するTシャツを着用していた。(3、原告1415)

オ 被告は、同日午前7時40分、本件ホテルを出た。被告は、午前7時ないし8時頃、原告に電話をかけて、ポーチを忘れていないか尋ねた。原告は、荷物は全て持っていると回答したが、本件行為については言及しなかった。(337)

カ 被告の本件ホテルの滞在に係る冷蔵庫の利用履歴として、ミネラルウォーター1本が計上されている。(352、乙17)

(4) 本件行為後における原告の言動等
ア 原告は、4月4日、産婦人科であるイーク表参道を受診し、アフターピルの処方を受けた。イーク表参道のカルテには、同日午前2時ないし3時頃の性交渉の際に避妊具が破れた旨の記載がある。原告は、同日昼には妹とカフェに行き、同日夜には妹及び友人と会食をした。(437、乙7)

イ 原告は、4月5日、友人の○○(以下Fという。)と会食をした。(11)

ウ 原告は、4月6日、被告に対し、無事にワシントンに戻ったかを確認するとともに、原告のビザに係る対応の検討結果を尋ねるメールを送った。原告は、同日、元谷整形外科を受診し、右膝内障及び右膝挫傷と診断された。元谷整形外科のカルテには、変な姿勢で座っていたために膝の痛みが生じた旨の記載がある。(115、甲13、乙6)

エ 原告は、4月7日、〇〇(以下Kという。)と家具店に行った際、本件行為について初めて打ち明けた。(甲121437、原告1819頁)

オ 原告は、4月8日、友人宅において、Fらに対し、本件行為について打ち明けた。(1137、原告20)

カ 原告は、4月9日、原宿警察署に行き、本件行為に係る事実を申告した。(37、原告2021)

キ 原告は、4月14日、被告に対し、「この前はどうしたらいいのかわからなくて、普通にメールしたりしていましたがやっぱり頭から離れなくて。」、「この前気づいたらホテルにいたし、気づいたらあんなことになっていてショック過ぎて山口さんに罵声を浴びせてしまいましたが、あの時言ってた君は合格だよって、いうのはどういう意味なんでしょうか?」、「山口さんのこととても信頼していたので・・・」と記載したメールを送信した。これに対し、被告は、「罵声浴びた記憶はないけどな。」とした上で、原告の雇用についての進捗状況を報告する旨のメールを返信した。(甲1の1617)

ク 原告は、4月17日、まつしま病院を受診し、外陰部から膣内には外傷がなく、性感染症に関する異常はないと診断された。また、原告は、同院において、睡眠薬を処方された。まつしま病院のカルテには、同月3日から同月4日にかけて強姦被害に遭ったが、その間の記憶がない旨の記載がある。(5、乙8)

ケ 原告は、4月18日、被告に対し、「意識の無い私をホテルに連れ込み、避妊もせず行為に及んだあげく、その後なにもなかったかのように電話でビザの手続きをするので連絡するといってきたり、この度に及んでそのようなあやふやなご返答をされるのは何故ですか?」、「この状況を考えると、まるで山口さんが仕事の話を持ち出してこのような機会を伺っていたように思えてしまいます。」として、誠意ある対応を求める旨記載したメールを送信した。これに対し、被告は、同日、「あなたは私が強制したわけでもないのに自ら進んで飲んで泥酔し、タクシー内や私のスーツや荷物に嘔吐して正体不明となりました。路上に放置するわけにもいかないから、やむなく逗留先に連れて行ったんだよ。」、「あなたが普通に食事して普通に帰ってくれたら何も起きなかった。私だってこれから一緒に働こうという人に、最初からそういう意図で接するはずがありません。」と反論する旨のメールを送信した。(甲1の2223)

コ 被告は、4月18日、本件行為による妊娠を心配する旨のメールを送信してきた原告に対し、本件行為時の状況に関し、本件居室で嘔吐後に眠ってしまった原告が、「唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました。その時はあなたは「飲み過ぎちゃった」などと普通に話をしていました。だから、意識不明のあなたに私が勝手に行為に及んだというのは全く事実と違います。私もそこそこ酔っていたところへ、あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった。」と記載した上で、「あなたが妊娠するという事はあり得ないと考えています。」と記載したメールを返信した。(12425)

サ 前記1(1)オの記事(転記者注:文春寄稿記事のこと)をめぐり、被告は、一時帰国した3月30日からワシントンに戻る4月4日までの間、TBSから、出社に及ばずとの通知を受けており、その後、15日間の出勤停止処分を受け、さらに、同月23日、TBSのワシントン支局長を解任され、営業局への異動を命じられた。同月26日、被告がTBSのワシントン支局長から解任されたとの報道がされた。(4、被告6367)

シ 原告は、4月30日、高輪警察署に告訴状を提出し、同署はこれを受理した。(前提事実(4))

ス 原告は、5月7日、新百合ヶ丘総合病院を受診し、医師から、妊娠の可能性はほぼないとの説明を受けた。新百合ヶ丘総合病院のカルテには、4月3日に被害を受けた旨の記載がある。(9、原告22)

セ 原告が、5月8日、被告に対し、被告が以前妊娠の可能性がないと断言していたことについて理由を尋ねるメールを送信したのに対し、被告は、「精子の活動が著しく低調だという病気です。」と回答した。これに対し原告は、「精子が弱い=避妊なし性行為という正当化をされているように聞こえます。」と返信した。(14347)

ソ 原告は、5月20日、まちどりクリニックを受診し、外傷後ストレス障害と診断された。まちどりクリニックのカルテには、ビザについての話合いをした際に性的暴力を受けた、5時頃に性交渉に及んだがその記憶がない旨の記載がある。(6251、原告81)

タ 被告は、警察官を通じて、原告に対し示談を申し入れたが、原告はこれを拒絶した(争いがない)。

チ 東京地方検察庁は、平成28年7月22日、被告に対する準強姦被疑事件について、不起訴処分をした。原告は、平成29年5月29日、上記処件を不服として、検察審査会に対し審査を申し立てたが、検察審査会は、同年9月21日、上記処分が相当であるとの議決を行った。(710、前提事実(4))

ツ 原告は、前提事実(5)のとおり、平成295月以降、本件公表行為を行い、同年10月には、本件著書を発表した。原告は本件著書の「はじめに」において、本件著書を刊行した理由につき、「あの日起きたこと――私自身の経験、相手方の山口敬之氏の言葉、捜査、取材で明らかになった事実については、これから本書を読んで頂きたい。みなさんがどう考えるかはわからない。」、「それでも、今の司法システムがこの事件を裁くことができないならば、ここに事件の経緯を明らかにし、広く社会で議論することこそが、世の中のためになると信じる。それが、私がこの本をいま刊行する、もっとも大きな理由だ。」と記述したほか、別紙記述目録3記載1から26までのとおり、本件行為の状況や本件行為後の経過に関する具体的な記述や、別紙記述目録4記載1から6までのとおり、本件行為後における被告との間のメールのやり取りに関する詳細な記述をした。(1923273537)

テ 原告は、平成29928日、被告に対し、本件行為につき、不法行為による損害賠償を求める本件本訴請求に係る訴えを提起した。

ト 被告は、平成29年12月、「Hanada-201712月号」に、「私を訴えた伊藤詩織さんへ」と題する手記を寄稿した。この中で、被告は、原告が本件行為当時いわゆるブラックアウト(アルコール性健忘)の状態にあり、被告が同意なく本件行為に及んだとする原告の主張は真実ではないと供述した。(10) 

2 争点(1) (本件行為につき原告の同意があ ったか) について
(1) 本件行為に至る経緯及び本件行為の状況に関する両当事者の供述
ア 原告は 、本件行為に至る経緯に関し 、①本件串焼き店においては、ビールをコップ2杯、ワインをコップl、2杯飲んだ 、②本件寿司店において は、原告と被告の二人で少なくとも2 合の日本酒を飲み、原告は、2回目のトイレの際に、強いめまいにより立っていることができず、便器の蓋に腰かけ、そのまま後方に頭を傾ける状態となり、その時点以降、本件居室内において下腹部の痛みで目が覚めるまでの記憶がない、③被告は 、本件寿司店を出た後 、原告と共にタクシーに乗車したが、運転手によれば 、原告は、乗車時に「近くの駅に行 ってください。」 などと述べていた、④被告の指示によりタクシーが本件ホテルに到着すると、被告は、原告をタクシーから引きず り出すように降車させた、⑤被告は 、足元がふらついた状態の原告に体重を預けられるようにして、本件居室に向かったと主張し、記憶がないとする③から⑤を除き 、これに沿う供述をしている。 また、本件行為の状況に関し 、⑥原告は本件居室において目を覚ました時 、ベッドの上で全裸で仰向けになっており、被告が原告の下腹部に避妊具を装着していない陰茎を挿入した状態であ った、⑦原告が 「痛い。」、「やめて。」と述べても被告は行為を止めず、原告が「 トイレに行きたい。」と述べると被告は原告から体を離した 、⑧原告は、バスルームに駆け込み、その後、バスルームから出ると、被告は入口側のベ ッドに原告を押し倒し 、原告の顔 に被告の顔を近付けたため、原告は顔を背け、ベッドに顔面が押し付けられる形となって呼吸が困難になった、⑨原告がなぜこのようなことをするのかと英語で問いただしたの対し、被告は、「ごめんね。」、「君のことが 本当に好きにな っちゃった。」  、「早く ワシントンに連れて行きたい 。君は合格だよ。」、「あと12時間で空港に行かなくてはいけないので 、その途中に大きなドラッグストアがあるので、ピルをそこで買いましょう、その問に一緒にシャワーを浴びよう。」 などと述べた、⑩被告は、身支度をしようとした原告に対し、原告の下着を差し出しながら、「パンツくらいお土産にさせてよ。」、「いつもはできる女みたいなのに 、今日はまた子どもみたいでかわいいね。」と述べた 、⑪原告のスラックスは濡れていなかったが、原告のブラウスは濡れていて着用できない状態であり、被告が原告に対し被告のT シャツを差し出したことから、原告は、一刻も早くその場から 逃れるために、T シャツを受け取って着用し、本件居室を出たと主張し、これに沿う供述をしている。

イ これに対し、被告は、本件行為に至る経緯に関しては、①原告と被告は 、本件串焼き店において、ビールの大瓶を2本、サワーの大ジ ョッキを各1杯、ワインの一升瓶を 1本注文した 、②原告は 、本件寿司店において 、少なくとも6、7合の日本酒を飲み 、トイレに入ってそのまま寝込んだほか、他の客の椅子に座つて話したり、裸足で店内を歩いたりするなどの行動をとった、③本件寿司店を出た後、被告は、原告の様子から原告は一人で帰宅することが困難であると考え、原告をタクシーに乗車させたが、原告が車内で嘔吐をしたことに加え、被告は午前0時までに米国の政治の動向を確認する必要があったため、原告を本件ホテルに連れて行くことにした、④被告は、タクシーが本件ホテルの車寄せに到着した後、原告に手を貸して降車させ、本件居室に向かう間、原告の歩調に合わせて 、横に並んでゆっくりと歩いたと主張し、これに沿う供述をしている。また、本件行為の状況に関しては、⑤原告は、本件ホテルの部屋に到着してからも幅吐をし、吐潟物の付着したブラウスとスラックスを被告の手助けを得て脱いだ後、入口側のベ ッドで寝込み、午前2時頃に起きて冷蔵庫のミネラ ルウォーターを飲むと、窓側のベッドで寝ている被告に対し状況を尋ね、被告が不機嫌な様子であることを見て取り、就職活動に関し自分が不合格であるかを何度も尋ねた、⑥被告が入口側のベッドに戻るよう指示すると、原告は戻ったものの、被告に対し、就職活動に関しまだチャンスがあるのであれば、こちらに来てほしいなどと述べたため、被告は根負けして、原告の気持ちをなだめるために原告の寝ていた入口側のベッドに移動し腰かけた、⑦原告は、就職活動に関し自分が不合格であるかを尋ねながら、左手で被告の右手を握り、引き込むように引っ張ったため、被告は原告と添い寝をする状態になった、⑧原告は、再び就職活動に 関し自分が不合格であるかを尋ねつつ、寝返りを打ちながら右足を被告の体の上に乗せたため、被告は、悪印象を挽回しようとする原告に安心感を与えようとして、性交渉を始めた、⑨原告が痛みを訴えたため、被告は、性交渉を中止し、原告と被告は、短時間の会話をした後、就寝した、⑩被告が午前5時に目を覚ました後、バスルームから出てきた原告が被告に対し、「何か着るものを貸してもらえませんか。」と述べたため、被告がパ ッキング中の荷物の中から好きなものを選んで着てよいと伝えると、原告は、Tシャツを選んで着た、⑪原告は、午前 6 時頃、被告に見送られて本件居室を出たと主張し、それに沿う供述をする。

(2) 原告の供述について
前記1(2)イ、エ、ないしカ、(3)アのとおり、原告は、本件串焼き店では小グラスのビールを2杯、グラスワインを1杯ないし2杯の飲み、本件寿司屋では日本酒を少なくとも2合飲んだこと、本件寿司屋においてトイレに行った際、蓋をした便器に腰かけ、給水タンクに頭をもたせかけた状態で意識を失ったこと、トイレから戻った後は同じ内容を繰り返し話す状態であったこと、本件寿司屋を出た際に千鳥足であり、時折、並木に手をついて休む様子であったこと、タクシーの車内において嘔吐したこと、タクシーが本件ホテルの車止めに到着し、停車してから2分以上経過した後、被告に引きずられるようにしてドア側に移動して降車したこと、ホテルの部屋に向かう間、足元がふらついており、隣を歩く被告に体を預け、被告に支えられる状態にあったことが認められる。これらの事実からすると、原告は本件寿司店を出た時点で相当量のアルコールを摂取し、強度の酩酊状態にあったものと認められ、このことは、本件寿司店においてトイレに入った後、本件居室で目を覚ますまでの記憶がないという原告の供述内容と整合的である。

また、前記1(3)イないしエ、(4)アのとおり、原告は居室においてシャワーを浴びることなく、44日午前5時50分に本件ホテルを出てタクシーで帰宅したことが認められるところ、これらの原告の行動は、原告が被告との間で合意の下に本件行為に及んだ後の行動としては、不自然に性急であり、本件ホテルから一刻も早く立ち去ろうとするための行動であったとみるのが自然である。また、原告は、同日にイーク表参道を受診してアフターピルの処方を受けているが、このことは、避妊することなく行われた本件行為が、原告の予期しないものであったことを裏付ける事情といえる。加えて、前記1(4)エないしカのとおり、原告は、同月7日及び8日に友人2名に本件行為に係る事実を告げて相談したほか、同月9日には原宿警察署において本件行為に係る事実を申告して相談したことが認められる。原告が、本件行為に近接した時期に、本件行為につき合意に基づかずに行われた性交渉であると周囲に訴え、捜査機関に申告していた点は、本件行為が原告の意思に反して行われたものであることを裏付けるものといえる。この捜査機関への申告については、被告がTBSワシントン支局長を解任されたのは同月23日であり、原告が本件行為に係る事実を警察に申告した同月9日の時点では、被告は同支局長として原告の就職のあっせんを期待し得る立場にあったものであるから、原告があえて虚偽の申告をする動機は見当たらない。

以上の点からすると、本件寿司店において二度目にトイレに入った後、本件居室で意識が戻るまでの記憶がなく、意識が戻った際、被告による本件行為が行われていたとする原告の供述は、本件行為前の原告の酩酊状態や本件行為後の原告の行動等と整合するものである。

(3) 被告の供述について
前記1(1)イ、エ、(3)カのとおり、原告は被告との会食の前に被告に対し複数回にわたり就職先の紹介を求めるメールを送ったこと、被告の本件ホテルの滞在に係る冷蔵庫の利用履歴としてミネラルウォーター1本が計上されていることが認められ、これらの事実は被告の供述内容と整合する。
しかし、被告は、原告とともに本件ホテルに向かった経緯につき、原告を本件ホテルに連れていくことを決めたのはタクシー車内において原告が嘔吐した時点であり、タクシーに乗るまでは原告の酩酊の程度は分からなかったと供述する(被告15)が、前提事実(3)アのとおり、本件寿司店と恵比寿駅は徒歩わずか5分程度の距離であることを踏まえると、本件寿司店を出た時点で、被告が自らとともに原告をタクシーに乗車させた点について合理的な理由は認めがたい。また、前記1(2)に認定したとおり、原告は、タクシーの運転手に対し、「近くの駅まで行ってください」と指示し、近隣の原宿にある自宅に電車を使って帰る意思を示していたのに、被告は、タクシーが目黒駅に到着する直前に、運転手に対し本件ホテルに向かうよう指示し、「その前に駅で降ろしてください。」と述べた原告に対し、「まだ仕事の話があるから、何もしないから。」などと述べて、原告をホテルに同行させた事実が認められる。上記につき、被告は原告が当時、神奈川に居住していたと思っていた旨供述するが(被告16)、原告はあらかじめ被告に対し原宿に居住している事実を告げていたと供述していること(37、原告85)に照らし、信用することができず、この点を措いても、本件寿司店での飲食を終え、帰宅のため原告をタクシーに同乗させた被告が、原告の帰宅先を尋ねていないこと自体不自然というほかない。さらに、被告は、午前0時までに米国の政治の動向を確認する必要があったため、やむを得ず原告をホテルに連れて行くこととしたなどと供述するが、前記1(4)サのとおり、当時、被告はTBSから出社に及ばずとの通知を受けていたのであるから、米国の政治の動向を確認することが職務上必須であったとも認め難く、この点においても、被告の供述はにわかに信用することができない。
被告は、原告が午前2時頃に起きた際、原告は「私は、何でここにいるんでしょうか」と述べ、就職活動について自分が不合格であるかを何度も尋ねており、酔っている様子は見られなかったと供述する(3、被告8384)。しかし、原告のこの発言自体、原告が本件居室に入室することにつき同意をしていないことの証左というべきであるし、前記判示のとおり、本件寿司店において強度の酩酊状態になり、本件居室に到着した後も嘔吐をし、被告の供述によれば一人では脱衣もままならない状態であったという原告が、約2時間という短時間で、酔った様子が見られないまでに回復したとする点についても疑念を抱かざるを得ない。そして、被告の供述する事実経過は、本件行為後、原告が本件居室でシャワーを浴びることもなく、早朝に、被告を残して一人で本件ホテルを出たこととも整合しない。
さらに、本件行為に至る経緯についても、前記1(4)コに認定したとおり、被告は4月18日、原告に対して送信したメールにおいて、「あなたは唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました。」、「あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった。」などと記載して、原告の方から被告の寝ていたベッド、すなわち窓側のベッドに入ってきたと説明していたことが認められるが、同メールの内容は、原告に呼ばれたために被告が窓側のベッドから原告の寝ている入り口側のベッドに移動したとする被告の供述内容と矛盾するものであり、このような供述の変遷について合理的理由は認め難い。この点につき、被告は、上記メールにおける「私の寝ていたベッド」とは、前日まで被告が寝ていたベッド、すなわち入り口側のベッドのことを指すなどと供述する(被告7375)。しかし、被告の供述を前提にすると、原告は、それまで寝ていた入り口側のベッドから唐突に立ってトイレへ行き、戻ってきた後、もともと寝ていた入り口側のベッドに戻ったに過ぎないことになり、本件行為のきっかけについて説明するという上記メールの趣旨からして明らかに不自然というべきであるし、「私の寝ていたベッドに入ってきた」とする上記メールの文理とも整合せず、被告の供述は不合理というほかない。
以上のとおり、被告の供述は、本件行為の直接の原因となった直近の原告の言動という核心部分について不合理に変遷しており、その信用性は重大な疑念があるといわざるを得ない。

(4) 原告の供述の信用性に関する被告の主張について
ア  被告は、イーク表参道のカルテには性交渉が4月4日午前2時ないし3時に行われた旨の記載があることから、原告自身、同時刻において意識があったことを認めていると主張する。
しかし、本件行為時に避妊具が使用されていない点は当事者間に争いがないところ、イーク表参道のカルテには、避妊具が破れたなどと客観的事実に反する記載がある点で、記載内容の正確性に疑義がある。もとより、アフターピルの処方のみを目的とする診療で、患者から詳細な聴取がされていないとしても不自然とはいえないこと、原告がイーク表参道を受診したのは本件行為から間もない時点であり、アフターピルの処方の対象となる性交渉の詳細を述べることに抵抗を感じていたと考えられることからすると、原告の曖昧な申告に基づき、カルテに不正確な記載がなされたとの疑念も払拭することができない。そうすると、イーク表参道のカルテの記載内容に依拠して、原告が44日午前2時ないし3時頃に意識があったと認めているということはできない。

イ  被告は、まつしま病院のカルテには4月3日から同月4日にかけて強姦被害に遭ったがその間の記憶がない旨の記載、まちどりクリニックのカルテには同日午前5時頃に性交渉に及んだがその記憶がない旨の記載、新百合ヶ丘総合病院のカルテには同月3日に被害を受けた旨の記載があることからすると、原告にはそもそも本件行為に係る記憶がなかったのであり、同意なく本件行為がなされたとする原告の供述は信用できない旨主張する。
しかし、原告は4月3日に本件寿司店において意識を失った後の記憶がなく、翌4日早朝に目を覚ました際には既に被告が性交渉を行っていたと供述しており、まつしま病院とまちどりクリニックの各カルテにおいて記憶がないと記載されているのは、同月3日に意識を失ってから翌4日早朝に目を覚ますまでの間の記憶がないとの趣旨であると理解することができる。また、新百合が丘総合病院のカルテにおいて同月3日に被害を受けたと記載されているのは、原告自身は同日に意識を失った後、翌4日早朝に目覚めるまでの記憶がなく、同月3日から4日未明にかけて本件行為が行われていた可能性があるとの認識を踏まえたものであるとみるのが自然である。したがって、上記各カルテの記載内容を根拠に、原告が自己の認識し記憶する部分として供述する本件行為の状況につき、原告の記憶がなかったということはできない。

ウ  被告は、原告と被告が本件ホテルの部屋に到着したのは午後11時頃であるにもかかわらず、本件行為があったのは翌日午前5時頃であることになる点で、原告の供述は不合理であると主張する。
しかし、原告は、被告が宿泊する部屋に入った時点で、嘔吐して吐瀉物が髪や衣服に付着した状態となっていたと推測されることからすると、被告が直ちに原告との性交渉に及ぶ状況にはなかったとしても不自然であるとまではいえない。また、原告の供述によれば遅くとも午前5時には性交渉が行われていたとのことであり、それ以前については記憶がなく、それ以前に性交渉がいつ行われていたのかについては不明であることを前提とするものと解されることからすると、原告の供述が不合理であるということはできない。

エ  被告は、被告が宿泊する部屋のバスルームには電話機が設置されており、原告が電話機を使用して外部への連絡をしなかったことは、原告が供述する当時の状況と矛盾すると主張する。
しかし、原告の供述によれば、原告がバスルームに入ったのは、目が覚めて被告から性交渉をされていることに気づいた直後であり、動揺して自らが置かれている状況が把握できず、冷静な判断ができない状態であったことは容易に推察されるから、電話機を使用して、外部への連絡をしなかったことが不自然であるとはいえない。

オ  被告は、原告が被告から渡されたTシャツを着用したことは、被告が原告に対し、同意なく性交渉を行ったという原告の供述内容と整合しないと主張する。
しかし、原告の供述によれば、原告の衣服を探したのは、本件行為の直後であり、現奥が動揺し、一刻も早くその場を離れたいとの心理状態であったことが合理的に推察されるところ、同時点において、現奥の着用していたブラウスが濡れたままであり、着用できない状態であったことからすると、原告が被告から差し出されたTシャツをとっさに受け取り、着用したことが不自然であるということはできない。

カ 被告は、原告が46日に被告が無事にワシントンに戻ったかを確認するとともに、ビザに係る対応の検討結果を尋ねるメールを送ったことは、本件行為があったことを受け入れたうえで就職活動に係る協力を求める行為であり、本件行為が原告の同意に基づくものであったことを裏付けるから、原告の供述には信用性がないと主張する。
しかし、同意のない性交渉をされた者が、その事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらない振る舞いをすることは十分にあり得るところであり、原告の上記メールも、被告と性交渉を行ったという事実を受け入れられず、従前の就職活動に係るやり取りの延長として送られたものとみて不自然ではない。そうすると、原告が上記メールを送ったことにより、本件行為が原告の同意に基づくものであったことが確認されるということはできず、原告の供述の信用性に影響を及ぼすものとは認められない。

キ 被告は、Fが陳述書において原告が準強姦の被害を受けたとの話をした旨記載していること、Kが陳述書において原告が被告に馬乗りで押さえつけられたとの話をした旨記載していることが矛盾し、またKの陳述書の上記記載に関し、被告が原告に馬乗りになったとすると被告は原告の下腹部に陰茎を挿入することができないから、原告の供述には信用性がないと主張する。
しかし、そもそも原告は法律の専門家ではなく、準強姦と強姦との区別が曖昧であった可能性が十分に考えられる上、原告が意識を失った状態で被告から性交渉をされた点をとらえて、「淳強姦」、原告が意識を取り戻した状態で被告から体を押さえつけられた点を捉えて「強姦」とそれぞれ表現したこととしても何ら不自然ではない。また、被告が原告をベッドに押し倒して、上から覆いかぶさる状態にあった点を「馬乗り」と表現することも不合理ではなく、これらの点を根拠に、原告の供述や変遷があるということはできない。

ク 以上によれば、原告の供述の信用性に関する被告の主張はいずれも採用することができない。そのほか、被告は、原告には性交渉の動機がある一方で被告にはその動機がないなどといった事情を主張するが、いずれも原告の供述の信用性に影響を及ぼすものではなく、採用することができない。

(5) 本件行為についての合意の有無
ア 前記1(2)オ、カに認定したタクシー内における原告と被告のやり取り、タクシー降車時及びタクシーを降車してから本件居室に入室するまでの原告の状況からすれば、原告は、当時の記憶は喪失しているものの、原告が本件居室に被告と共に入室したことが、原告の意思に基づくものであったとは認められない。

次に、両当事者の供述についてみると、前記のとおり、本件居室内における本件行為に関する被告の供述には、重要な部分において不合理な変遷が見られ、客観的な事情と整合しない点も複数存するなど、その信用性に疑念が残るものであるのに対し、本件行為時に意識を回復した後の事実に関する原告の供述は、客観的な事情や本件行為後の行動と整合するものであり、供述の重要部分に変遷が認められないことからすると、被告の供述と比較しても相対的に信用性が高いものと認められる。

以上のとおり、本件行為に至る原因となった本件居室への入室が原告の意思に基づくものではなかったと認められることに加え、信用性が相対的に高いと認められる原告の供述によれば、被告が、酩酊状態にあって意識のない原告に対し、原告の合意のないまま本件行為に及んだ事実、及び原告が意識を回復して性行為を拒絶した後も原告の体を押さえ付けて性行為を継続しようとした事実を認めることができる。

イ そうすると、被告による上記行為は、原告に対する不法行為を構成するものと認められる。

3 争点(2)(原告の損害額)について

前記認定のとおり、原告は、それまでに二回しか会ったことがなく、就職活動に係る連絡のみを行い、将来は職務上の上司となる可能性のあった被告から、強度の酩酊状態にあり意識を失った状態で、避妊具を着けることなく性交渉をされたこと、意識を回復し拒絶した後も、被告に体を押さえ付けられて強引に性交渉を継続されそうになり、その際、ベッドに顔面が押し付けられる形となって呼吸が困難になるなどして恐怖を感じたこと、これにより、原告が、現在まで、時折、フラッシュバックやパニックが生じる状態が継続していることが認められる(原告27)。なお、前記1(4)ウに認定したとおり、原告は、本件行為後の46日、元谷整形外科において右膝内障及び右膝挫傷と診断された事実が認められるところ、同障害が原告が記憶を喪失した期間中に生じたものであることは窺われるものの、本件行為により生じたものか、それ以前の経過の中で生じたものであるかは証拠上明らかではなく、本件行為により生じたものと断ずるには至らない。上記事実のほか、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、原告が被告の不法行為によって被った肉体的及び精神的苦痛に対する慰謝料は、300万円をもって相当と認める。

そして、被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額については30万円とみとめるのが相当である。

したがって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき330万円及び不法行為日である44日から支払い済みまで年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。

4 争点(3)(本件公表行為が被告に対する不法行為を構成するか)について
(1) 別紙記述目録1ないし3について
被告は、原告の本件公表行為のうち、別紙記述目録1ないし3の記載に係るものが被告に対する名誉毀損の不法行為を構成すると主張するから、以下、検討する。

ア 別紙記述目録1記載1ないし4並びに別紙記述目録3記載1ないし26を一般の読者の普通の注意と読み方によって読めば、被告は、意識を失った状態の原告に対し避妊具を着けずに性交渉を行い、原告が意識を回復して逃げようとしたにもかかわらず、原告の体を押さえ付けて性交渉を継続しようとし、その後、原告が下着を返すよう求めると、下着だけでも土産として持ち帰りたい、いつもは強気なのに困った時は子供のようで可愛いなどと述べた事実、被告が性交渉を行った際に、原告の体にあざや出血が生じた事実をそれぞれ摘示するものと認めるのが相当である。これらの事実の摘示は、読者に、被告が原告の意識がないことに乗じて性交渉を行い、原告が意識を回復して拒絶したにもかかわらず強引に性交渉を継続しようとして、その過程で原告が負傷したとの印象を与えるとともに、被告は原告の女性としての尊厳を軽視する発言を行ったとの印象を与えるものであって、被告の社会的評価を低下させるものと認められる。

別紙記述目録2記載1ないし6を一般の読者の普通の注意と読み方によって読めば、被告は、意識を失った状態の原告に対し、原告の意思に反して性交渉を行った事実を摘示するものと認めるのが相当である。これらの事実の摘示は、読者に、被告が原告の意識がないことに乗じて性交渉を行ったとの印象を与えるものであって、被告の社会的評価を低下させるものと認められる。

なお、別紙記述目録3記載17について、同記述を一般の読者の普通の注意と読み方によって読めば、原告に生じた記憶障害や吐き気の症状がデートレイプドラッグを服用した際に生じる症状と一致していた事実を摘示するものと認めるのが相当であり、被告が原告に対しデートレイプドラッグを服用させた事実を摘示するものであるとは認められない。

イ 前記1(4)ツに認定したとおり、原告は、自らが体験した本件行為及びその後の経緯を明らかにし、広く社会で議論することが、性犯罪の被害者を取り巻く法的又は社会的状況の改善につながるとして、別紙記述目録1ないし3に係る公表をしたことが認められる。そうすると、別紙記述目録1ないし3は、公共の利害に係る事実につき、専ら公益を図る目的で表現されたものと認めるのが相当である。

ウ 前記判示のとおり、被告は、平成2744日早朝、意識のない状態の原告の陰部に避妊具を着けていない陰茎を挿入させ、原告が意識を回復し拒絶した後も、体を押さえ付けて性交渉を継続しようとしたことが認められる。また、証拠(原告91415頁)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から本件行為をされた際に、乳首や腕、右腰を負傷したこと、被告は原告に下着を返す際に、下着だけでも土産として持ち帰りたい、いつもは強気なのに困った時は子供のようで可愛いなどと述べたことが認められる。これらによれば、別紙記述目録1ないし3が摘示する事実は真実であると認められる。

(2)  別紙記述目録4について
被告は、原告の本件公表行為のうち、別紙記述目録4の記載に係るものが被告に対するプライバシー侵害の不法行為を構成すると主要する。

別紙記述目録4の記載は、本件行為に係る事実経過や被告の認識等を摘示するものであり、その内容は、一般人の感受性を基準として被告の立場に立った場合に、通常公開を欲しない情報ではある。しかし、前記のとおり、原告が、性犯罪被害者を取り巻く法的又は社会的状況を改善すべく、自らが体験した性的被害として本件行為を公表する行為には、公共性及び公益目的があると認められるところ、同目録記載のメールのやり取りは、前記1(4)に認定したとおり、被告が原告の同意なく、避妊もせずに性行為をしたことから、妊娠を心配する被害者である原告と加害者である被告とのやり取りを公表するものであり、本件行為をめぐって原告と被告との間で主張が対立する中、本件行為が原告の合意の下に行われたとする被告の主張に反論すべく、被告との間の交渉経過や避妊をしなかったことについての被告の言い分を明らかにするためにされたものと認められ、その態様も、相当性を逸脱したものとはいえない。そうすると、原告の上記行為は、社会生活上受忍の限度を超えて被告のプライバシーを侵害するものであるとは認められない。

したがって、原告の本件公表行為のうち、別紙記述目録4の記載に係るものが被告に対するプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するものとは認められない。

5 小括
したがって、争点(4)(被告の損害額)及び争点(5)(謝罪広告掲載等の要否)につき判断するまでもなく、被告の反訴請求はいずれも理由がない。

6 結論
以上よれば、原告の本訴請求は、被告に対し、330万円およびこれに対する平成2744日(不法行為の日)から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

 

裁判長裁判官 鈴木昭洋

裁判官 石田佳世子

裁判官 窓岩亮佑

 

山口敬之さんを応援する一般女性グループです。

山口氏の冤罪を晴らすための徹底検証を当ページで共有させていただきます。伊藤-山口シェラトン事件の真相がここに!

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